昔から長崎に伝わる民話です。
ちょっと怖いタイトルなんですが、母親の愛情を感じさせるとてもいいお話です。

昔、長崎の麹屋町に一軒の飴屋がありました。
ある夜、飴屋の主人が戸締りをしていると、外からか細い女の人の声がしました。
「もうし・・・こんばんは、すんまへん・・・。」
主人が戸を開けてみると、真っ青な顔をした女の人が、しょんぼりと立っていました。
「すんまへん、飴を一文ほどおくれやす。」
かぼそい京なまりの声でそう言います。
主人は、その女の人に一文分の飴を渡しました。
女の人は、次の日の夜も、またその次の日の夜も飴を買いに来たのです。
主人は、毎日やってくるその女の人が、どこの誰なのかだんだん知りたくなってきました。
その女の人が店に現れてから七日目の夜。
その日も、いつもの時刻、女の人はやってきました。
ところが今までとは様子が違います。
寂しそうな顔をして、こう言いました。
「すんまへん、今夜はお金がなくなってしまいました。飴をめぐんでいただけないでしょうか・・・。」
主人はあわれに思い、飴をめぐんであげる事にしました。
女の人は、喜んで飴を受け取ると、真っ暗な寺町の方へ姿を消して行きます。
主人は、加勢を頼んでおいた町の若者達と一緒に、あとを追いました。
すると、女の人は光源寺の新しい墓の中へスーっと消えるように入ってしまったのです。
あまりの怖しさに、みんなあわてて逃げ帰りました。
夜が明けてから改めて住職を尋ね、飴屋の主人、若者達、住職さんは、その墓を掘り返してみました。
すると、なんとそこには、生まれて間もない元気な男の赤ん坊が、死んだ母親のお腹の上で飴をしゃぶっていました。
驚いた一同は赤ん坊を助けあげ、住職さんは墓の持ち主を調べました。
それは、筑後柳川出身で長崎在の藤原清永という宮大工だということがわかりました。
さっそく住職さんは、赤ん坊を父親である清永のもとで育てることにしました。

実はこの仏様には、こんな事情がありました。
清水が彫刻の修行で京都に逗留していた折、泊まっていた宿の女の人と恋仲になりました。
長崎の親元から急にもどるように言われた清永は「必ず戻ってくるから」と約束をし、長崎に戻りました。
長崎では親が決めたお嫁さんが待っていました。
気の弱い清永は、京都にいる恋人のことを話せないまま、言われるままに結婚してしまいました。
一方、京都では、清永の帰りを心待ちにしていた恋人が、とうとう待ちきれずに長崎まで一人旅に出ました。
やっとの思いで長崎に辿り着いてみると、清永は他の女の人と結婚していました。
彼女は、あまりの悲しさとくやしさと長旅の疲れで死んでしまいました。
実は、その時、彼女のお腹には清永の赤ん坊が宿っていたのです。
恋人の死を知った清永は、悲しみながら光源寺の裏に大切に葬ったのです。
そして、不思議な事に、赤ん坊はお墓の中で生まれました。
死んでも死にきれなかった母親は、柩にいれられていた冥土への一文銭六枚を毎晩一枚ずつ持って、赤ん坊に与えるお乳のかわりに飴を買いに通っていたのです。

このお話にはまだ続きがあります。

赤ん坊が助けられてから何日か過ぎた夜、また女の人のゆうれいが飴屋に来ました。
「もうし、すんまへん。」
主人はそっと戸を開けると、女のゆうれいが嬉しそうに言いました。
「おかげさまで子供が助かりました。 お礼に参りました。何か困ったことがあったら、おっしゃっておくれやす。」
主人は、最近水不足で困っていることを伝えました。
そうすると、女の人は少し考えてこう言いました。
「明日朝早うに、わての櫛(くし)が落ちている所を掘ってみておくれやす。きっときれいな水が涌き出しまっせ・・・。」
女の人は、そう言うと微笑みながらスーっと消えて行きました。
あくる日の朝早く、主人は言われたとおりにあちこちと櫛を探し回りました。
すると、麹屋町から寺町へと通じる坂道の左側の溝のすぐそばに女物の櫛が落ちていました。
その場所を掘り始めてみると、まもなくきれいな水がこんこんと涌き出てきました。
主人は村の人達と一緒に、井戸を作りました。
その井戸は、どんな日照りでも渇れることなく、きれいな水をたたえていました。
その後、この井戸は「麹屋町のゆうれい井戸」と呼ばれるようになりました。
そしていつしか町の賑わいとともに埋められ、現在麹屋町の六番地横の道路脇にひっそりとその跡を残しています。

このお話は、今も光源寺さんに伝わっており、ゆうれいの絵姿と人形が、毎年ご開帳の折(8月16日)に一般公開されています。

□お問い合わせ
光源寺
 〒850-0802
長崎市伊良林1-4-4
TEL:095-823-5863
FAX:095-823-7231
URL:http://www1.cncm.ne.jp/~k-naoya/

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